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しょうねん
潤一郎ラビリンスI――初期短編集
谷崎 潤一郎
線上閱讀谷崎 潤一郎《潤一郎ラビリンスI――初期短編集(しょうねん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 41,319 字 · 84 頁
「君、君、僕は今切符を切って貰ったんだが、少し待ち合わせる人があるから、此のあとへ乗るんだ。」
掛りの男にこう断ると、例の氷包を額へあてながら、私は遮二無二人ごみの流れに逆って、周章狼狽して、悪魔に追わるゝ如く構外へ逃げ延びた。そうして、ベンチへどたりと崩れて、漸く胸を撫で下した。何処かで後指を差して自分の様子をゲラゲラ嗤って見て居る奴があるかも知れん。………
「こんな筈ではなかった。酔ってさえ居れば、何とか神経の眼を盗んで、そうッと胡魔化して行ける筈だのに、一体今日はどうしたんだろう。事に依ると、己の神経はモウ酒の力でも麻痺されないほど病的に興奮して来るのではあるまいか。」
とう/\二時になった。此の上一分でもグズグズして居たら、三時は愚か四時になっても、目的地へ到着出来そうもない。若し此の機会を逸して了えば、どうしても最近に原籍地の検査日までに、東京へ帰らなければならない。
「私は汽車へ乗ると、気違いになるか、死ぬかしますから、検査までにはとても東京へ行かれません。」
こんな理由を、区役所の兵事掛へ書いて送ったら、どうするだろう。「死んでも、気違いになってもいゝから、是非検査までに帰って来い。