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ぼんのうひぶんしょ

煩悩秘文書

林 不忘

線上閱讀林 不忘《煩悩秘文書(ぼんのうひぶんしょ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 86,705 字 · 173 頁

青空文庫

「由や、御苦労だが、ちょいとあの二人をつけて、はいった家を見届けてくんねえ。」

文珠屋佐吉の乾児で承知の由公、こいつ、名打ての尾行や張込みの名手なので。

「承知!」

と、綽名にまでなっている得意のひと言、由の字、もう、とっとと小刻みに、流れるような通行人を楯に身を潜めて、消えて行った。

先の二人は、橋をわたって室町一丁目、二丁目、本町――神田のほうへ。

後から由公、見えがくれに鼻唄まじり。ずっと橋を渡りきるあいだ、それを見送っていた文珠屋佐吉は、安心したのか、にやっとほくそえんで歩き出していた。

口を利く鬼瓦

東へ下がって思案橋を過ぎ、堀留から大伝馬町の文珠屋という看板を掲げたわが家へ、帰り着いた佐吉は、その鬼瓦のような顔を、皮肉な笑いに引きつらせていた。

部屋部屋の女中の役目から、台所の板場、水仕事まで、おんなというものを一人も置かずに、何からなにまで男の手でやっている、一風変った宿屋である。

「いま戻ったぞ。」

文珠屋佐吉は、侍のような言葉づかいで、ずいと、その薄暗い土間へはいって行った。

時代で黒く光る帳場格子の中で、なにか帳合いをしていたらしい番頭の与助が、そろばんをそのままに、筆を耳に挾んで飛び出して来た。