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おぎふくうた
犀星王朝小品集
室生 犀星
線上閱讀室生 犀星《犀星王朝小品集(おぎふくうた)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 105,794 字 · 211 頁
筒井は男を怨むとか薄情者であるとかいう観念を持たず、ただ健やかであれと思うほかは淡い気持であった。こうも心からうすれてゆくものかと思うほど、遠い人だった。きゅうにその顔を念じて浮べようとするほど、もう顔の感じがまとまって思い出せなかった。筒井は、こういう自分の心持を男に引きくらべ、男の頭にも自分の顔かたちがこんなふうに薄れて行っているのであろうと、やはり水のような気持でしか考えられなかった。
或る悩ましく花の蒸れるような夕方、姉弟が来て筒井に告げた。それはこの一と週りのあいだ、毎日のように邸をうかがう男がいるとのことだった。筒井はそれを一度も眼にしたことはなかったが、その言葉にはあらたまった驚きで、とうとう彼の方が見えたのだ、あの方はあの日から自分を尋ね歩いてとうとう此処までお見えになったのだ、あの方でなければできない尋ね方なのだ、あの方が見えたのだ、わたくしを尋ね、かつて捨てられたわたくしを拾いに見えたのだ。だが、わたくしはお逢いしていいのだろうか、お逢いするほどわたくしは厚顔しい女であろうか。わたくしはもうお逢いしたい、お逢いすることによって凡てを委ね凡てを忘れたいのだ。