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おぎふくうた
犀星王朝小品集
室生 犀星
線上閱讀室生 犀星《犀星王朝小品集(おぎふくうた)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 105,794 字 · 211 頁
この家にとどまっていたことも偶然ではあったが、この偶然ははなはだ筒井にとって明るい春秋がおくられ、そして此処にいたために貞時に逢えたようなものであった。
宮腹親子は門前に出て迎えの女車に乗った筒井に、こういう善い人たちが生きている世の安らかさを再び感じたほど、ふしぎに感動したのであった。
「かならず吉日にはたずねて見えられい、我らその日をお待ちする。」
主人がそういえば唖の娘は、ただ、声をあげて別れを惜しんだ。
「ではお別れいたします。」
筒井は人情というものの重たさを背負いきれない気持であった。女はみなそんなものかも知れないが、筒井の生涯の半ばもそれの続きだった。彼女は愛せらるために身も心も重く、そしてそれに離れるために苦しまねばならなかった。それにしても筒井の知った人びとは、どの人もみな不幸と悲哀を言い合わしたように持っていた。或る意味でどの人にも多少の不幸がくい込んで離れないのかも知れない、筒井のくるしみなぞは物の数であろうかと思ったが、彼女はその三年四ヶ月の永い歳月は一生の半ばをついやしたように永いものに思われた。
暖かい春の昼頃であった。筒井がもどって来てから急に明るくなった水辺の家では、いよいよ筒井と貞時の婚宴の日が迫ると、家の中、庭の内そとがあらためられ、塵一つのこさずに掃き清められた。