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おぎふくうた
犀星王朝小品集
室生 犀星
線上閱讀室生 犀星《犀星王朝小品集(おぎふくうた)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 105,794 字 · 211 頁
そしていかにこの場を遁れるために油の説明が効いたか分らなかった。
「では失礼を。」
その言葉はつめたかった。
「待て、身どもと話をいたしてゆかれぬのか。」
「もはや夜半になりますゆえ。」
「定明がもとにこれから赴こうとするほどの御身が、われと話さえまかりならぬというのか。」
経之は赫として眉をあげた。
「はい、定明様は定明様、あなた様はあなた様、別ようにございます。」
「それで……。」
経之はせき込んで叫んだ。
「わたくしはこれにて罷ります。」
落著いてあきらかに嫌がったふうを見せたはぎ野は、そのまま、うしろ向きになって歩き出した。まるで経之なぞはぎ野の頭の中にいないというふうだった。
「はぎ野。」
返しの言葉がなかった。
「待て。」
経之はその時、手にいじっていた火打石の一個を、殆どそれが決定的にそう抛打つために用意されていたように、こちら向きになったはぎ野に打ち当てた。
「あ。」
「うごくな。」
しかし素早いはぎ野は、叫び声をあげると同時に池の向う側に姿を消した。たしかに、額に火打石は掠めたのだ、手応えは充分にあったのだ。もしかりに額に当てられたとしたら、傷を負わしはしなかったかと、なぜか、きゅうに経之の心は咎めたが、大ざっぱに、そして投げやりな気持に変って行った。