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おぎふくうた

犀星王朝小品集

室生 犀星

線上閱讀室生 犀星《犀星王朝小品集(おぎふくうた)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 105,794 字 · 211 頁

青空文庫

「いいたいことがあったらいえ。」

二人は同時にこう示し合わせるように、互の胸のうちの言葉がききたかった。こうなってなお、互の何かをきくのはふしぎな気持だった。

「汝があとに残ったら姫にそういえ、津の茅原は心では最後までお慕い申したと伝えてくれ、我がのこらば汝の思うところを伝えよう。」

「同じことを繰り返すだけだ。だが、きょうこそは宿縁の命を絶ってさっぱりしたいものだ。汝もおさおさ怠るな。」

二人は最後に何となく冷たく笑い合って見た。いうことも、もはやなかった。笑うより外に何も表わすものも、また、残っているものもなかった。

「遅れると基経殿が見える……千載の遅れをとるぞ。」

「同時に矢離れを契うぞ、神かけていつわるではない。」

二人は矢をつがえた。手は汗とあぶらで二人とも、指先が光った。

「行くぞ。」

「では、いいか。」

「射て。」

殆、同じ瞬刻にこの言葉は放たれ、お互の耳の中に人の声としての最後にきくものだった。矢はついに放たれた。津の国人の矢羽と和泉の国人の矢羽とが、白と黒の羽をすれちがった処は、二人の距離のちょうど真中だった。悲しい矢さけびはあたりの春景色に不似合な、人の心を居竦ませる悲鳴をあげて過ぎた。