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せまいいちそくめん
狭い一側面
宮本 百合子
線上閱讀宮本 百合子《狭い一側面(せまいいちそくめん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 2,348 字 · 5 頁
素木しづ氏も存生で、一人お子さんが生れた当時であった。生活が楽でなく、困り抜いた揚句であったろう。深夜、一台の俥に脚の不自由なしづ氏と赤ちゃんが乗り、良人であったU氏が傍について西片町の瀧田氏を訪ねて来られたのだそうだ。金策の相談があった。けれども、瀧田氏は、誰でも知るあの言葉つきで、
「断りました」
と云った。
「なぜ?」
「私は一さい情実に捕われないことにしています……書いたものを買うなら別だが」
一つの插話にすぎないが、私は、氏の編輯者道とでもいうべきものの一端を見るように思った。
大正九年の初夏に一度、西片町の家を訪ねたことがあった。二階の部屋に通された。そこには、氏の特に愛蔵する夏目漱石氏の書、平福百穂氏の絵などが豊富に飾られてあった。別に、鴨居から一幅、南画の山水のちゃんと表装したのがかかっていた。瀧田氏は、ぐるぐる兵児帯を巻きつけた風で、その前に立ち、
「どうです、これはいいでしょう」
と云った。筆の細かい、気品のある、穏雅な画面であった。
「誰のです」
「それが、私は(確な名を忘れた)××だと思うんですが、落款がないんです、手に入れた時、夏目さんに見せたら、こりゃあいいと云っていた」