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しょうじょうるてん

生々流転

岡本 かの子

線上閱讀岡本 かの子《生々流転(しょうじょうるてん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 297,521 字 · 586 頁

青空文庫

越しますと、向うの渚の庭石伝いになって、道は石灯籠のわきを通って草木の多い築山の小さい尾根に到ります。こゝで池を下手について廻る本径と、上手へ築山の間へ登って行く分れ径とに岐れております。わたくしは散歩してこの築山の尾根の下から坂の緩い分れ径を登って行くのが好きでした。その緩い坂はほんの十五六歩ほどの長さしかありませんが、左右に疎らな草木に挟まれて、登って行くこの径からは世界のどこを歩いて行くのかすっかり周囲の地理的関係を忘れさしてしまうような感じをさす不思議な影響がありました。その緩い坂を登りつめてしまえば、大震災の当時の市区改正のため築山のうしろは断ち切られた俄崖になり、見下ろす崖の肌にも寒竹の根や灌木の根が瓦石と混って赭土の断面にむくじり出ています。この俄崖とすれ/\に剥げた黒塀が構えられていて、その塀を越せばもう出前持が自転車で岡持を持ち運ぶ都大路の八衢の一つになっております。手芸品を風呂敷に背負って問屋へ急ぐおかみさんも通ります。ですが、その塀のところまで行き切らないで、その少し手前までのほんの十五六歩ほどの緩い坂を疎林や疎竹に挟まれながら登って行くときの気持は実に世に便りないものでありながら而も無限にしみ/″\したものがどこからともなく胸に触れて来る境域でありました。