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せいとしとのきろく

生と死との記録

豊島 与志雄

線上閱讀豊島 与志雄《生と死との記録(せいとしとのきろく)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 18,961 字 · 39 頁

青空文庫

私は芳子の腕を取った。寝静まった病院の階段を私達は一段々々と下りた。看護婦が玄関の扉を開いてくれた。私は彼女をすぐに病室の方へ返した。

雨は霽れていた。外は真暗な闇が深く澄み切っていた。玄関に私の腕にもたれて立ちながら、芳子は私の手を緊と握りしめた。

「坊やのことをね、坊やのことをね、お頼みしますよ。」と芳子は云った。

「ああ大丈夫。」

「しっかと手を握ってやっていて下さい、ね。」

私達の心に堯の死の場面がはっきりと映じた。

俥はまだ来なかった。私は外に出てみた。薄暗い寝静まった通りを透して見ると、向うに俥屋の提灯の火が見えた。

「来ましたか。」

「ああ今すぐ。」

芳子は又私の手につかまった。

「坊やのことをね。堯をね。」

私は返事の代りに、彼女を緊と抱いてやった。

すぐに俥屋が来た。「S町まで、」と私は云って芳子を連れ出した。

俥屋の一人は私達の姿をじっと透し見た。

「おや、奥様でございましたか。」

「あ、Yさんですか。」

一人は私達をかねて知ってる俥屋の主人Yであった。彼は、私達の親戚の家や産婆のIさんの家も知っていた。好都合だった。でその主人に産婆の家へ行って貰うことにした。