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せいぜんしんごのこと

生前身後の事

中里 介山

線上閱讀中里 介山《生前身後の事(せいぜんしんごのこと)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 41,804 字 · 83 頁

青空文庫

相談であった、余輩はどんなに頼まれても決して劇界への出馬などは思いも寄らぬことであった、そこで結局、松竹の覇業は新陳代謝の自然の勢というべきものであった、併し冷眼にその雲行を眺めつつ、松竹を圧え東京劇壇を振わすだけの方策は我輩の眼と頭にははっきりと分りながらそのままに見過していた。そうしているうちに松竹は歌舞伎の本城を陥れた。

そういう変態な不精な立場で小説に隠れるというわけでもないが、大菩薩峠の筆を進めているうちに、都新聞の読者の中にも相当具眼者もあれば有識者もあって隠然の間に大いなる人気を占めていたのである、そうして好事家の間にはこれを是非劇化したい、俳優は誰れがいい、吉右衛門でなければいけぬとか、菊五郎がいいとかいうような噂が絶えず聞かれていた、併し、小生はそういうことに頓着せずして彼是十年も経たろう、時日の事はまたよく調べて追加しようが、兎に角劇界の事は離れているからよく分り過ぎる程分るのである。

さて、その時分になって都新聞に我輩が紹介で入れた寺沢という男を通じて大阪の沢田正二郎が是非あれをやらして貰いたいとのことだ、沢田正二郎という名は当時坪内博士主宰の劇団や何かでチラホラ聞いていたが、その人も芸風もまだ見た