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せいぜんしんごのこと

生前身後の事

中里 介山

線上閱讀中里 介山《生前身後の事(せいぜんしんごのこと)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 41,804 字 · 83 頁

青空文庫

こと、世間へ面出しをすることを嫌がるに於ては無類の男である、それがつながり連がって行くというのも因縁であろう、さて、この度もまた大菩薩峠の形訳上演ということになった、そこで聊か劇に就いての繰り言をこの機会に少々並べて後日の記念に備えて置きたいものだと思う。

抑も余が演劇に本式に関係を持ち出したのはたしか二十四五歳の時、本郷座の「高野の義人」を紀元として見るがよかろう、この時は余は都新聞にいて誰も小説で相当の成功を見ようとは思わなかったのが「高野の義人」が都新聞紙上に連載されて相当の好成績を示していた時分のことだ、当時本郷座は新派の牙城であって巨頭が皆ここに集って歌舞伎の俳優と相対し、天下を二分していたのだが、一時は歌舞伎即ち旧派を圧倒した時代もあったのだが、その時分になるとそれも聊か下火になって毎回どうも思わしからぬ形勢であったのだ、本郷座にも俳優といえば高田実があり、伊井蓉峯があり、藤沢浅次郎があり、河合武雄があり、喜多村緑郎があり、深沢恒造がありその他門下各々英材が満ち充ちて役者に不足はなかったのだが脚本に全く欠乏していた