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たざきそううんとそのこ

田崎草雲とその子

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《田崎草雲とその子(たざきそううんとそのこ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 19,568 字 · 40 頁

青空文庫

母性愛と、女のたしなみとに、つつましく、ただ涙の眼で、見まもっているお菊であっても、恐らくは、自分と同じであろう、と梅渓は思った。

数日後。お菊の兄の松井益太郎がきて、一息つけたので、梅渓は、

『一言、礼に』

と、いって一九の家へ出向いた。

近所に、貧乏画家が住んでいるとは聞いているが、訪ねられて、会ってみると、一九は怖ろしい圧迫を感じた。衣服などは、垢じみているが、貧乏臭い影などは微塵もない。濃い眉、射るがごとき瞳黒、肩幅はひろく、脊は立てば鴨居につかえそうだ。膝を真四角に坐っている。そして、談論風発だ。

こいつあ、苦手だ。――と一九は、肚の中で兜をぬいだ。

話が、自作の膝栗毛のことに及ぶと、飯田町と池の端も、甘えもンだといっている一九だが、なんだか、見透かされるような気がして、ツイ、口を辷らして種を割ってしまった。

『評判は大したもんで。へい左様で。だがあいつあ実は、あっしばかりの智恵じゃねえんで、合作というやつでげす。――酒井雅楽頭の縁びきに、酒井仲っていう人がありやしてね、これが、道楽者でげす。学問は和漢にわたって、一通りでげすが、辰巳、吉原の方も詳しい。