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とめさんとそのおんな

留さんとその女

山本 周五郎

線上閱讀山本 周五郎《留さんとその女(とめさんとそのおんな)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 6,799 字 · 14 頁

青空文庫

ある晩、留さんはひどく真面目な顔つきをして高梨の奥さんを訪ね、貯金通帳を返してもらいたいと頼んだ。

「これで五度目ですよ、留さん」

と高梨の奥さんは云った、「あたしはもう何も云いません、今度こそしっかりして騙されないようにしなさいよ、もうおまえさんも八ですからね」

「分ってるだよお神さん」

留さんの本気な顔がそのときひときわ黒く輝いた、「今度こさ大丈夫ですよ、本当だよ、ずっとめえからの馴染なんだから」

「どこの女なの?」

「潮来で勤めていただ」

留さんの話すところによれば、彼女はながいこと潮来で遊女をしていたので、留さんとは三年このかたの深い仲――そう云ったとき留さんの眼は恥しそうにうるんだ――なのであった。二人はきわめてたまにしか逢う機会がなかったにかかわらず、ゆく末はかならず夫婦になろうと約束していた、そこで今度女の年期が明けたので、約束に違わず遙々とやって来たものであるという。

「まるで紺屋高尾みてえな話さ」

留さんはいい機嫌に笑った。

けっこうである、高梨の奥さんは貯金通帳を返してやり、いくらかの御祝儀をそれに添えた。留さんは秋鯊のように喜びでふくれながら帰って行った。