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うみがめ

異妖の怪談集 岡本綺堂伝奇小説集 其ノ二

岡本 綺堂

線上閱讀岡本 綺堂《異妖の怪談集 岡本綺堂伝奇小説集 其ノ二(うみがめ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 144,507 字 · 291 頁

青空文庫

江戸川端の屋敷へ帰り着いても、日はまだ暮れ切っていなかった。庭のあき地に植えてある唐もろこしの葉が夕風に青くなびいているのが、杉の生垣のあいだから涼しそうにみえた。中間の佐助はそこらに水を打っていたが、くぐり戸をはいって来た主人の顔をみて会釈した。

「お帰りなさいまし。」

「お福は内にいるか。」と、西岡はすぐに訊いた。

「はい。」

それではやはり人ちがいであったかと思いながら、西岡は何げなく内へ通ると、台所で下女の手伝いをしていたらしいお福は、襷をはずしながら出て来て挨拶した。毎日見馴れている妹ではあるが、兄は今更のようにその顔や形をじっと眺めると、さっき御成道で見かけたかの娘と不思議なほどに好く似ていた。やがて湯が沸いたので、西岡は行水をつかって夕飯を食ったが、そのあいだもかの娘のことが何だか気になるので、下女にもそっと訊いてみたが、その返事はやはり同じことで、お福はどこへも出ないというのであった。

「では、どうしても他人の空似か。」

西岡はもうその以上に詮議しようとはしなかった。その日はそれぎりで済んでしまったが、それから半月ほどの後に、西岡は青山百人町の組屋敷にいる者をたずねて、やはり夕七つ半(午後五時)を過ぎた頃にそこを出た。