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うみがめ

異妖の怪談集 岡本綺堂伝奇小説集 其ノ二

岡本 綺堂

線上閱讀岡本 綺堂《異妖の怪談集 岡本綺堂伝奇小説集 其ノ二(うみがめ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 144,507 字 · 291 頁

青空文庫

なにかの子細があって自殺したとしても、こんな場所を選む筈がない。第一、奥と表との隔てのきびしい城内で、中老ともあるべきものが何処をどう抜け出して来たのであろう。どうしてもこれは本当の島川ではない。他人の空似か、あるいはやはり妖怪の仕業か、いずれにしても粗忽に立ち騒ぐこと無用と、役人は人々を堅く戒めて置いて、さらにその次第を奥家老に報告した。

奥家老下田治兵衛もそれを聴いて眉をしわめた。ともかくも奥へ行って、島川どのにお目にかかりたいと言い入れると、ゆうべから不快で臥せっているからお逢いは出来ないという返事であった。さては怪しいと思ったので、下田は押返して言った。

「御不快中、はなはだお気の毒でござるが、是非ともすぐにお目にかからねばならぬ急用が出来いたしたれば、ちょっとお逢い申したい。」

それでどうするかと思って待ち構えていると、本人の島川は自分の部屋から出て来た。なるほど不快のていで顔や形もひどく窶れていたが、なにしろ別条なく生きているので、下田もまず安心した。なんの御用と不思議そうな顔をしている島川に対しては、いい加減の返事をして置いて、下田は早々に表に出てゆくと、かの白い女のすがたは消えてしまったというのである。