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うみがめ

異妖の怪談集 岡本綺堂伝奇小説集 其ノ二

岡本 綺堂

線上閱讀岡本 綺堂《異妖の怪談集 岡本綺堂伝奇小説集 其ノ二(うみがめ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 144,507 字 · 291 頁

青空文庫

「むむ、坐っていた。」と、石川はうなずいた。「おかしいと思って近寄ると、その婆のすがたは見えなくなった。いや、見えなくなったのではない。いつの間にか二、三間さきへ引っ越しているのだ。いよいよおかしいと思って又近寄ると、婆のすがたは又二、三間さきに見える。なんだか焦らされているようで、おれも癪に障ったから、穿いている足駄をぬいで叩きつけると、婆の姿は消えてしまって、足駄は大溝のなかへ飛び込んだ。」

「やれ、やれ。」堀口は舌打ちした。

「仕方がないから、おれも思い切って跣足になって、横町を足早に通りぬけると、それぎりで婆の姿は見えなくなった。これは自分の眼のせいかしらと思いながら、ここの屋敷の門前まで来ると、婆はもう先廻りをして雪の降る往来なかに坐っているのだ。貴様はなんだと声をかけても返事をしない。おれももう我慢が出来なくなったから、傘をほうり出して刀をぬいて、真っ向から斬り付けたが手応えがない。と思うと、婆はいつの間におれのうしろに坐っている。こん畜生と思って又斬ると、やっぱり何の手応えはなくって、今度はおれの右の方に坐っている。不思議なことには決して立たない、いつでも雪の上に坐っているのだ。