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びょうしつのげんえい

病室の幻影

豊島 与志雄

線上閱讀豊島 与志雄《病室の幻影(びょうしつのげんえい)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 5,426 字 · 11 頁

青空文庫

空を仰ぎ、日の光を見、小鳥の声を聞くのは、俺が……この俺自身がそうしてるので、俺より他のものではない。俺があって初めて世界があるのだ。俺がなかったら、世界も何もありはしない。否、あってもないに等しいものだ。そういう俺が今死にかかっている。もう余命幾日もないだろう。何ということだ。俺は生きたい、いつまでも生きていたい。

A――死と共に一切が亡びてしまうことは、俺にとっても同じだ。ただ俺は、生きるも死ぬるも、どちらだって構わない。そんなことは俺の知ったことではない。生きてる間は甘んじて生き、死ぬる時には甘んじて死ぬ、それが俺の態度なんだ。

B――俺は生死を自分以外のものに任せたくない。自分の意志で生き、自分の意志で死にたい。生きることも死ぬることも、完全に自分のものとしたい。

A――それでは結局、お前と俺とは、正反対のようで同じかも知れない。

B――同じのようで正反対かも知れない。

A――まあも少し、お互によく考えてみよう。

B――そうしよう。……それにもう夜明けだ。

A――彼女達が眼を覚ます時間だ。

AとBとの姿が消えて、二脚の椅子は空になる。畳敷の上に寝ていた若い女と看護婦とが、物に慴えたように突然眼を覚して、上半身だけで起上る。