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はくもくれん

白木蓮

豊島 与志雄

線上閱讀豊島 与志雄《白木蓮(はくもくれん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 12,039 字 · 24 頁

青空文庫

急性肺炎で倒れてから三日間、手当のひまもないほど急に、心臓の働きがとまってしまった由である。

「桃代さんが、急に、亡くなりましてね……。」

私の顔色は見ないで、独語のように、加津美のお上さんは言った。

「お別れに、いらっしゃるんでしょう。……様子を見てくるわ。」

喜美子は一人できめて、向う隣りの桃代の家へ駆けだしていった。

そして私は喜美子に案内されて、桃代に別れに行ったのだが、気持ちは、悲しみではなく、なにか大きな喪失感だった。前々日、加津美で、桃代が病気なのを聞いた時、そして一人で飲んでいた時、へんな肌寒さを予感のように感じたものだが、それも心配の種にはならなかった。それから、彼女の寝姿を前にして、ただ、何かがなくなった、という気持ちにぴたりと落着いた。――彼女の肉体がなくなったのだ。

油単のかかってる箪笥、覆いのしてある鏡台……、こまごました器物は取り片づけられてる、簡素な感じの室で、小さな床の間に、香炉が一つ置かれている。そのそば、青銅の花瓶に、真白な木蓮の花が活けてある。――ほのかな香りが漂ってくるのは、香炉からではなく、白木蓮の花からだった。