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しろあり

白蟻

小栗 虫太郎

線上閱讀小栗 虫太郎《白蟻(しろあり)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 54,099 字 · 106 頁

青空文庫

その時、もし全身を現わしたなら、それは悪虫さながらの姿だったであろう。不吉な蒸気の輪が、不具の身体と一緒に動いていって、その手が触れるところは、すぐその場で、毒のある何物かに変ってしまうだろうと思われた。しかし、あの醜い手足も青葉の蔭に隠れ、不気味な妖怪めいた頭蓋の模様も、その下映に彩られていて、変形の要所は、それと見定めることは出来なかった。そして、腹に巻いてある金太郎のような、腹掛の黒さだけがちらついて、妙にその場の雰囲気を童話のようなものにしていた。けれども、稚市自身はどうしたことか、両腕をグングン舵機のように廻しながら、おりおり滝人のほうを眺め、ほとんど無我夢中に、前方の樹下闇の中に這い込もうとしている。だが、彼を追うているのは、ただ一条の陽の光りだけで、それが槲の隙葉から洩れているにすぎない。それを滝人は瞬きもせずに瞶めていた。その眼は強く広くかれていたが、眼前にかくも怖ろしいものがあるにもかかわらず、いつものように病的な、膜までかかったような暗さは見られなかった。それが、この物語の中で、最も驚くべき奇異な点だったのである。

実際、その観念は恐ろしいものだった。