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しろあり

白蟻

小栗 虫太郎

線上閱讀小栗 虫太郎《白蟻(しろあり)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 54,099 字 · 106 頁

青空文庫

それに、くらは歯のない口を開いて、時江の亢奮を鎮めようとした。

「そんじゃけど、喰うてみりゃ、また足しにもなるもんじゃ。仔鹿の眼もよいと云うぞ。時江、むずかりもいい加減にするもんじゃ。この一家にも、儂の呼吸があるうちに、もう一度、必ずええ日が廻り来るでな」

「いいからもう、そんな薄気味悪いものばかり並べないで」と母の言葉に押し冠せて、時江は泣きじゃくるように肩を震わせたが、「でも考えてみると、稚市さえ生まれてくれなかったら、こんなにまでひどい苦しみを、うけずにすんだかもしれないわ。あの病いの始めのうちは、肌の色が寒天のように、それはそれは綺麗に透き通ってくるんですって。それから、痺れがどこからとなくやってきて、身体中を所嫌わず、這い摺るようになると、今まで見えていた血の管の色が、妙に黝ずんできて、やがて痺れも一個所に止まってしまい、そこが白斑みたいに濁ってくるんですとさ。でも、それと判ってさえいなければ――ひょっとしたら、死に際近くになって出ないとも限らないのだし、まったくこんなふうに、いつ来るか――いつ来るかいっそ来てしまえばとも捨鉢に考えてみたり、また事によったら、一生を終えるまで出ずにはすみはしまいかと――そんな当途ない、心安めを云い聴かせてまで生きているのが……。