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はくはつき

白髪鬼

江戸川 乱歩

線上閱讀江戸川 乱歩《白髪鬼(はくはつき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 112,046 字 · 224 頁

青空文庫

午後八時という定めの時間が近づいて来た。誰と誰との間に定めた時間だか、それは今すぐ申上げる。

そこで、わしは洗面所へ立つ振りをして、次の室へ這入った。無論そこもわしの借り切りになっているのだ。そして、ドアを締めると鍵穴に眼を当てて、今か今かと事の起るのを待ち構えた。

見ていると、その僅の間にさえ、離れているに耐えないのか、川村の奴はコソコソと瑠璃子のソファへ席を換え、彼女にすりよってその手を取った。

「およしなさい。里見さんが帰っていらっしゃるわ」

瑠璃子は満更らいや相でもなく、小声で男をたしなめた。

「ナアニ構うもんか。里見さんも薄々は感づいているのだ。先生僕等を似合いの夫婦だと云ってたぜ」

川村は美しい顔に似合わぬ図々しさで、ギュッと女の手を握りながら、

「だが、大丈夫かい。僕は少し気がもめるぜ」

と、早ややきもちを焼き始めた。

「アラ、何なの」

瑠璃子が空とぼけると、川村はわしの覗いているドアの方を顎でしゃくって、

「あの先生さ。君はどうも慾ばりだからね。子爵にさえ惚れたんだから、子爵の何倍という金持の里見さんは、いくら老人でも危いよ。君の様な虚栄女は、どうも不安で仕様がない」