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いしかりがわ

石狩川

本庄 陸男

線上閱讀本庄 陸男《石狩川(いしかりがわ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 253,535 字 · 506 頁

青空文庫

――窓に立って来て、彼のうしろ姿を見送っているその家族を感じながら、一刻もはやく闇にまぎれたいと思うのであった。爪先あがりの路を、音もない幾つかの小屋の前を通りぬけた彼は、今なお家老に扱われるのが辛かった。空腹を感じていたのである。どこかでぷんと匂った味噌汁のにおいが一層それを刺激した。するとこれらの黝んだ小屋と同じように――ひそやかに独りで待っているであろう自分の妻を思いだしていた。路は右と左に、どちらもほんの数十間の距離であった。それをどう行こうかと一瞬立ちまようのだ。左に取れば女どもが昔の称呼で云う「お館」であった。そして、それはまた今の場合、彼らの気持をささえている支柱でもあった。

彼らの小屋よりは確かに上等であった。そうだ、只今の限りでは、彼らの力の最善をささげたのである。自分のことは文句なしに差し措いて、こうした板囲いの家を邦夷のために建てねばならぬとし、建てて了った。その心情が、一年半に及ぶこの不自由と困憊にも耐えたのだ。自分らの食糧や衣類はおぼつかない海運に委せた彼らが、この家の調度だけは、確実に、交互に、自分らの肩に担ってやって来たのである。