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さばくのじょうねつ
砂漠の情熱
豊島 与志雄
線上閱讀豊島 与志雄《砂漠の情熱(さばくのじょうねつ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 3,132 字 · 7 頁
――それはそれとして、ここで他のことに想いは走るのである。
吾々の眼前には今、真の大衆と称して誤りない支那民衆がある。新時代の空気に浴した比較的インテリな人々ではなく、何等かの政治的色彩に染められた人々ではなく、大地から豊饒に生れ出るといわれる一般民衆のことである。数々の戦乱の苦難や被征服の苦渋を嘗めつくし、もはやそれらのことに或る程度麻痺してしまった、そういう伝統を肌身につけてる人々なのである。或は水牛の如く黙々として田畑を耕やし、或は騾馬の如く唯々として荷を運び、或は家鴨の如く騒々しく群れてる人々なのである。
彼等はその粗服と風雨に曝された皮膚以外、何等の表情をも持ってはいない。顔面の表情のみならず、身体全部の表情を持っていない。彼等が何を考え何を欲しているのか、窺い知る由もない。恐らくは何も考えず何も欲していないのかも知れない。当面の問題はただその日その日の生活にのみあるのであろうか。その心理風景を想像するに、そこには恐らく、一羽の小鳥も鳴かず一茎の野草も花咲かぬことであろう。
だが、彼等が、何等かの風向によって、一団となって動き出す時、それは非常な勢いとなる。