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かみがみのびしょう

神神の微笑

芥川 竜之介

線上閱讀芥川 竜之介《神神の微笑(かみがみのびしょう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 9,156 字 · 19 頁

青空文庫

のみならず信徒も近頃では、何万かを数えるほどになった。現にこの首府のまん中にも、こう云う寺院が聳えている。して見ればここに住んでいるのは、たとい愉快ではないにしても、不快にはならない筈ではないか? が、自分はどうかすると、憂鬱の底に沈む事がある。リスポアの市へ帰りたい、この国を去りたいと思う事がある。これは懐郷の悲しみだけであろうか? いや、自分はリスポアでなくとも、この国を去る事が出来さえすれば、どんな土地へでも行きたいと思う。支那でも、沙室でも、印度でも、――つまり懐郷の悲しみは、自分の憂鬱の全部ではない。自分はただこの国から、一日も早く逃れたい気がする。しかし――しかしこの国の風景は美しい。気候もまず温和である。……」

オルガンティノは吐息をした。この時偶然彼の眼は、点々と木かげの苔に落ちた、仄白い桜の花を捉えた。桜! オルガンティノは驚いたように、薄暗い木立ちの間を見つめた。そこには四五本の棕櫚の中に、枝を垂らした糸桜が一本、夢のように花を煙らせていた。

「御主守らせ給え!」

オルガンティノは一瞬間、降魔の十字を切ろうとした。実際その瞬間彼の眼には、この夕闇に咲いた枝垂桜が、それほど無気味に見えたのだった。