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しほんたいへいき

私本太平記

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 116,638 字 · 233 頁

青空文庫

するうちに、師直方から一使者が邸内へ入り、まもなくまた、邸内からも、尊氏の使者が来て、師直に告げるところがあった。

「――いかなる憤激にせよ、主人の家をとりかこむ法やある。所存あらば退いて申し出ろ。それとも目的は他にあって、事を幸いに天下を奪わんとでもするのなら問答は一切無用だ。しかと腹を割って申せ」と。

それに答えて、師直は再度の使者を出し、「師直が本心は、君の御存知でないはずはない。讒者の張本ども一類を悉く縄してお下げ渡しねがいたい」と、今は尊氏へ対してさえ傲岸、引く色もない。尊氏も、かさねての使者を以て「家僕の恫喝に会って下手人を出したとあっては天下の嘲り、そのような前例をひらくことは罷りならん。さらば待て。畜生を相手とするのは哀しいが一戦もぜひあるまい。尊氏も鎧って起とう。なんじ師直、よく我に一矢を放ッてみせ得るか」と、きつく叱る。――ここで一時、交渉は絶え、両軍ともに寂と、不気味な真夜半を睨めあっていた。

が、まもないうちである。師直方から三度目の使者が邸内へ入った。そしてこんどは書面とした物を差出し「これが最後の一札でござる」と捨て言葉をおいて引きさがった。