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あきぞらはれて

秋空晴れて

吉田 甲子太郎

線上閱讀吉田 甲子太郎《秋空晴れて(あきぞらはれて)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 9,291 字 · 19 頁

青空文庫

はじめは相手にしなかった主人の平吉も、さすがに病人の心持が可哀そうになった。それほどに会いたがっている一男に一目会わせてやったら、或は病気も早くなおるのではあるまいかと思われ出した。

それで、電報を打つことになったのだ。

「一男か、よく帰って来てくれた」

そそけ髪の頭をあげて、母は幾日か夢に描きつづけた一男の顔を、じっと眺めた。涙が一滴、やつれた頬を伝って、枕の布を濡した。

「もう大丈夫、僕どこへも行きはしませんよ」

一男は胸が一杯になって思わずそう言った。彼も鼻の奥の方が変に痛くなって来るのを感じた。

だが、一男は突然ひょうきんな顔を妹のすみの方へふりむけた。

「ところで船長、お帰りはまだかい」

「船長?」

あっ気にとられている妹をからかうように一男はつづけた。

「わが石山丸の船長さ。お父つぁんはまだかってんだよ」

「まア、兄さんたらお家と船を一しょにして――」

「船さ、船だとも、世の荒波を勇ましく乗り切る船だよ。――だが、この機関長、腹が減ってるんだがなア」

「もう、お父つぁんも帰る時分よ」

「そうか、じゃ水夫ども、甲板掃除だ」

一男は後に控えた弟や妹を振りかえった。