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かがくとぶんがく
科学と文学
寺田 寅彦
線上閱讀寺田 寅彦《科学と文学(かがくとぶんがく)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 25,562 字 · 50 頁
この欠陥を補うものはまず第一に個人の日記、随感録のごときものである。そういうものが後代に愛読され尊重されるのは、必ずしもそれが「文章」であるためではなくて、それが「記録」であるためであろう。殿上の名もない一女官がおぼつかない筆で書いた日記体のものでも、それが忠実な記録であるために実証的の価値があり同時にそこに文学としての価値を生じるものと思われる。
第二にはいろいろの物語小説の類である。その中に現われる人物が実際にあったとか、なかったとかいう事はほとんど問題にも何もならないことであって、それらの仮想人物によって代表された人間の定型と、叙述された事件の定型はたしかに存在したのである。これはあらゆる「史実」よりもはるかに確実であって疑う余地を存しない。これはその書が後代の偽作でない限り言われることである。作者がいかに豊富なる想像力の所有者であってもその時代を偽り描くということは到底不可能な仕事だからである。それで、ちょうど、ある弾丸の描く弾道はまた同時に他のすべての可能な弾道を代表するように、一遊星の軌道はまさしく天体引力の方則を代表するように、光源氏や葵の上の行動はまさしくその時代の男女の生活と心理の方則を代表するものとも考えられる。