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とかちのあさ
科学以前の心
中谷 宇吉郎
線上閱讀中谷 宇吉郎《科学以前の心(とかちのあさ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 3,621 字 · 8 頁
外はまだ真暗で、何の声もない。妙に澄み切った静けさである。暖い毛布の中にもぐり込んで、人界を遠く離れた真冬の十勝岳を窓の外に感じながら、うつらうつらしていると、やがて下の部屋でO老人のガタンガタンと丸太をころがす音が聞えてくる。ストーブに火がはいったと見えて、下の部屋が何となく賑かになってくる。煙突へ逃げる焔の音らしい低い連続した響きの中に、パチパチと丸太のはねる音が雑って聞える。そのうちに勝手もとではO老人の細君が起き出したらしく、水を流すような音がしたり、時々器物のふれ合う鋭い小さい音が雑ってきたりする。覚め切らぬ頭の中に、これらの人間的な雑音の誕生と発展とが、妙な夢を齎してくる。譬えようもないが、何か海底の噴火でできた大海の中の孤島に、いろいろの植物や動物が流れ寄って、そこで新しい生命の生長が始まって行くようなとりとめもない夢である。
少しばかり煙の匂いのする暖い空気が、階段をつたって上ってきて、冷えた二階の空気の中に細い線条になって雑り込んでくるのが頬に感ぜられる。やがてその暖い空気の流れが寝床一杯をつつむようになると、覚めかけた脳がまたなだめられて、深い眠りに落ちて行くこともある。