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とかちのあさ
科学以前の心
中谷 宇吉郎
線上閱讀中谷 宇吉郎《科学以前の心(とかちのあさ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 3,621 字 · 8 頁
空は案外暗くならない。夜明の水色に澄んだままである。そしてコロナが白茶色の薄絹を張ったようにじっとかかっている。
すぐ横の真白の工学部の建物をちらと見ると、それも薄青磁色に染まりながら、寂として立っている。音のない一瞬であったが、どこか遠い街の方から、わーっという大勢の人声が低く響いてくるような気がした。皆既は思ったよりも短く、三十秒もなかったように思われた。すぐまた右下の一点が輝きだすと見る間に、それが太陽の縁に沿ってずんずん伸びて、また三日月に還った。そしてもう肉眼ではただの眩しい太陽に還ってしまった。
これで日食がおわったのである。呆気ないといえば呆気ないものである。そして天文学は、この一時の現象にわれわれが生きているうちには再びめぐり会えないと教えてくれる。無邪気に喜んでいる子供たちも、これからの長い生涯のうちに再び見られないであろう。私はなんだか、時の運行というものを見たような気がした。
(昭和一八年二月)