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よしつねのむすめ
義経の女
山本 周五郎
線上閱讀山本 周五郎《義経の女(よしつねのむすめ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 3,735 字 · 8 頁
広綱はなにゆえか、帰国の途中でふいに姿を隠してしまい、どこへいったかゆくえがしれないというのである、
――河越のことを聞いたからだ。
有綱はそう直感した。そこですぐにいとま乞いをして伊豆へ帰ると、屋形の内はいろめきたっていた、留守の間に鎌倉から「千珠どのを鎌倉へさしだすように」という使者が来たというのである。
「いずれひと合戦と存じまして、その支度をしているところでございます」
留守の侍たちはいきごんでそう云った。庭には楯が運び出されていた。弓を張る者、矢を揃える者たちが右往左往している、厩のあたりから遠侍へかけて、甲冑を着ける物音や叫び交す侍たちの、けたたましい声があふれていた。よしと云って有綱は奥へはいった。有綱は屋形の内をそこ此処とたずねまわったうえ、ようやく持仏の間にいる妻をみつけた。
「千珠いよいよ時が来た」
そう云って有綱が坐ると、千珠はしずかに向き直って、「御前のごしゅびはいかがでございましたか」と訊いた。有綱は気ぜわしくそのときのことを語った、頼朝が案外きげんよく会ったこと、ひきで物のこと、そして兄広綱のことなど。……千珠はしずかにうなずきながら聞いていたが、やがて「あらためてお話し申したいことがございます」