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じじょでん
自叙伝
大杉 栄
線上閱讀大杉 栄《自叙伝(じじょでん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 115,021 字 · 230 頁
明は泥だらけになって泣いて帰った。そしてそのお母さんから、「年上のくせに負けて泣く奴があるか」と叱られて、着物を着かえさせられる前に二つ三つ頬をなぐられた。
母は珍らしく大して僕を叱りもせずに、すぐどこかへ出かけて行った。そして、その翌日の朝早く、八軒町裏という町の、小学校のある女の先生の家に引越した。玄関とも入れて三間ばかりの家の六畳の座敷を借りたのだ。先生は一人でその次の室にいた。
「お前が喧嘩なんぞするものだから……」
母はこう言ってちょっと僕をにらみながら、こんどは何か荷物を片づけている女中の方に向いて、
「ほんとうにこの子が少し負けてくれればいいんだがね……」
と眉をしかめて見せながら、それでも
「こんどは相手が先生なんだから……」
と笑っていた。
半月ほどその家にいるうちに、四、五軒先きの小さな家があいて、そこへ引越した。
大きな一廓の中に、三つ建物があって、その一つが二軒長屋になっていた。その一軒に横井というたぶん軍属がいて、もう一軒の方に僕等が住んだのだ。一番大きな建物には石川という少佐の家があった。その家は、ほかの二つの建物とは裏合せになって、特に塀で区劃されて、八軒町という町の方に向いていた。