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じさつをかうはなし

自殺を買う話

橋本 五郎

線上閱讀橋本 五郎《自殺を買う話(じさつをかうはなし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 7,685 字 · 16 頁

青空文庫

勿論私が、常にもなくそう気軽に腰を上げることの出来たのは、一に友人を思う情の切なるものがあったからだが、そこにはまた、私として、新聞の広告欄にすがらねばならぬ程、それ程みじめな境遇に置かれていたからである。

寒い朝だった。古マントに風を除けながら、漸く私が訪れた時には、もう彼は起きていて、心からこの失業者を歓迎して呉れた。

火鉢にはカンカン火がおこっていたし、鉄瓶の湯は沸々と沸っていたのだが、何とはなく、私はこの、僅か二三カ月見なかった友の様子から、一種違った、妙な弱々しさと云ったものを感じた。痩せていると云うのでもなく、また失望した時のそれとも違う。どう云って慰めていいか、私には、その正体を見極めることが出来なかった。

「妙な広告をしたじゃあないか」

私は早速訊ねて見た。

「うむ」

とそこで野々村君は、急に憂鬱な表情になって、やがて静かに、該広告をするようになったいんねんを話し始めたのである。

聞けば聞く程痛ましい話だ。私は、友がかく有名になった以前の、その奇怪な哀れな物語に引き込まれて、暫くは、私自身の現在をも忘れていた程だった。

でその話と云うのは、いったい芸術家と呼ばれる者の修行時代は、他から見るように呑気なものではなく、惨苦そのもののような、だから、時にはやり切れないで(勿論それには色々の意味がある