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はんにゃのめん

般若の面

小川 未明

線上閱讀小川 未明《般若の面(はんにゃのめん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N3,點詞查義。

N3 · 進階 · 新字新假名 · 4,249 字 · 9 頁

青空文庫

と、主人は答えました。

若者は、どんなに、うれしく思ったかしれない。じつは、ここへくるまでに、他国の町で見せたことがあった。しかし、あまり安かったので売る気になれなかったのですが、若者は、そのことも打ち明けました。すると鍛冶屋の主人は、

「その値に、もうその値の半分も出したら、どうですか?」といった。

若者はよろこんで、それなら北海道へゆくのに余るほどだといって、主人に時計を買ってもらうことにしたのでした。

「これは、あなたのお父さんの形見だ。いつでも、ご入用のときは、さし上げた金だけかえしてくだされば、時計をおかえしいたします。」と、主人は、重ねていいました。

戸の外には、あらしが、叫んでいました。つるしたランプが、ぐらぐらとゆらぐほどでありました。若者は、厚く礼をのべて、教えられた方角へ、町を指してゆくべく、ふたたび、あらしの吹きすさむ闇の中へ出て、去ったのであります。その後を、しばらく主人は、だまって見送っていました。

二

いつしか、二十余年の月日はたちました。

空の色のよくすみわたった、秋の日の午後であります。一人の旅人が、町の方を見かえりながら、街道を歩いて、村の方へきかかりました。