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はなふぶき

花ふぶき

豊島 与志雄

線上閱讀豊島 与志雄《花ふぶき(はなふぶき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 9,409 字 · 20 頁

青空文庫

冷酒をあおって、そのコップを土間に叩きつけて、微塵に砕いてやった。

それでもおれは胆を落着けて、駆け出しはしなかった。ゆっくり坂を上って行った。坂を上りきった左手の方、神社の境内に、数株の桜の台木が、満開すぎの花をつけている。少しかすんだ陽光が大気中に漲っていて、花はへんに造花のような趣きがある。

坂に通ずる大道からわきにそれて、おれは桜の方へやって行った。神社の境内の彼方には人家があるが、こちら側はすべて焼け跡で、人の姿も殆んど見られない。

千代がそんなところにいるかどうか、これは嘉代さんの幻想で、自分の虚言を救うための口実なのだろう。それを嘉代さんが本当に信じてるとするならば、なぜ自分で探しに出かけなかったのだろうか。

その時、おれは急に胸を衝かれた。嘉代さんの最後の言葉を思いだしたのだ。

「わたしが行くと、泣いちゃうにきまってる。あんたなら丁度いい。静かに連れてきて下さいよ。」

相手は白痴だ。その白痴の神経をいたわれというのか。しかし連れて帰ったあとはどうなんだ。嘉代さんは泣かないだろうか。泣いても……そうだ、家の中のことだ、世間ていなんかないわけだ。