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あぢさい
花火・来訪者 他十一篇
永井 荷風
線上閱讀永井 荷風《花火・来訪者 他十一篇(あぢさい)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 52,046 字 · 104 頁
というものが建築されたのは八官町の通である。雑誌「三田文学」を発売する書肆は、築地の本願寺に近い処にある。華美な浴衣を着た女達が大勢、殊に夜の十二時近くなってから、草花を買に来るお地蔵さまの縁日は、三十間堀の河岸通りである。
逢う毎にいつもその悠然たる貴族的態度の美と洗錬された江戸趣味の品性とが、自分をして坐ろに蔵前の旦那衆を想像せしむる、我が敬愛する下町の俳人某子の邸宅は、団十郎の旧宅とその広大なる庭園を隣り合せにしている。高い土塀と深い植込みとに、電車の響も自ずと遠い嵐のように軟げられてしまうこの家の茶室に、自分は折曲げて坐る足の痛さをも厭わず、幾度か湯のたぎる茶釜の調に、耳を澄まして、礼儀のない現代に対する反感を休めさせた。
建込んだ表通りの人家に遮ぎられて、すぐ真向に立っている彼の高い本願寺の屋根さえ、何処にあるのか分らぬような静なこの辺の裏通には、正しい人達の決して案内知らぬ露地のような横町が幾筋もある。こう云う横町の二階の欄干から、自分は或る雨上りの夏の夜に、通り過る新内を呼び止めて、「酔月情話」を語らせて喜んだ事がある。また梅が散る春寒の昼過ぎ、磨硝子の障子を閉めきった座敷の中は黄昏のように薄暗く、老妓ばかりが寄集った一中節のさらいの会に、自分は光沢のない古びた音調の、ともすれば疲れ勝ちなる