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あぢさい
花火・来訪者 他十一篇
永井 荷風
線上閱讀永井 荷風《花火・来訪者 他十一篇(あぢさい)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 52,046 字 · 104 頁
慶三は無暗に咽喉が渇いて堪らなくなった。しかしこうなって見ると自分もうっかり階下へは下りられぬ。お千代の顔を見るが否やどうして呉れよう、何と云ってやろう。先の出ようで此方もそれ相応に一通は量見を極めてかからねばならぬ……。慶三は夜具を踏まえて二王立になったまま暫くは身動きも出来なかったが、突然下からお千代の泣声が漏れ聞えたのに、聊か不意を打れて梯子段の下口へ歩み出で息を凝し耳を聳てた。
「老婢、お前が悪いんだ。すぐに二階を片付けて置かないからさ。どうでもお前の勝手にするがいい。」と泣きながら叱りつけるお千代の声に応じて、老婢は頻りに何やら申訳をしているらしいが、その言葉は明瞭とは聞取れなかった。しかし事実はもう殆ど明白である。慶三は夜具を蹴飛し足音荒く二階から駈け下りるが否や、有合う下駄をつッかけて物をも云わず戸外へ飛出そうとした。いつまで二階に立ちすくんでも居られず、そうかと云って此方からのめのめと下へ降りて行くわけにも行かない。兎に角この場合面と向って愚図愚図云合おうよりは勢を示して一先外へ出た上、何とか適宜の処置を取ろうと思い定めたのである。