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あぢさい
花火・来訪者 他十一篇
永井 荷風
線上閱讀永井 荷風《花火・来訪者 他十一篇(あぢさい)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 52,046 字 · 104 頁
似て非なる漢文の著述は時代と共に全く断滅してしまった如く、吾々の時代の「新しき文章」も果して幾何の生命を有するものであろう。或はこれが日本文の最後の定ったる形式の、少くとも或る地盤を作るものであろうか。自分は知らない。
天保年間の発行としてある「江戸繁昌記」とこれに模して著作された「東京新繁昌記」とを、単にその目次だけ比較して見ても、非常な興味を以て、時代風俗の変遷を眺める事が出来る。明治の初年における「文明開化」と云う通り言葉は如何なる強い力を以て国民を支配したのであろう。「新繁昌記」の著者が牛肉を讃美して「牛肉ノ人ニ於ケルハ開化之薬舗ニシテ而シテ文明ノ良剤也」と云い、京橋に建てられた煉瓦の家を見ては、「此ノ築造有ルハ都下ノ繁昌ヲ増シテ人民ノ知識ヲ開ク所以ノ器械也」と叫んだ如きわざと誇張的に滑稽的に戯作の才筆を揮ったばかりではなかろう。今日の時代から振返って見れば、無論この時代の「文明開化」には如何にも子供らしく馬鹿馬鹿しい事が多い。けれども時代一般の空気が如何にも生々として、多少進取の気運に伴って、奢侈逸楽等の弊害欠点の生じて来る事に対しても、世間は多くの杞憂を抱かず、清濁併せ呑む勢を以て大胆に猛進して行った有様は、いかにも心持よく感ぜられる。