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わかきせいしんのせいちょうをえがくぶんがく

若き精神の成長を描く文学

宮本 百合子

線上閱讀宮本 百合子《若き精神の成長を描く文学(わかきせいしんのせいちょうをえがくぶんがく)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 8,205 字 · 16 頁

青空文庫

しかしながら、ヨーロッパ風な宗教の重圧とはちがう日本の封建の重しはそのものとしてはなはだ複雑で、その埒からより広い精神の世界に飛び立とうとする羽ばたきは、近代の日本文学のあらゆる段階に響いている。明治二十年代のロマンティシズムもその後の自然主義も、その羽音には、過去の因習に対して人間精神の自立と勝利とを求める響をつたえているのである。それにもかかわらず、過去からの影はどんなに深い密雲で若々しい精神の行手を遮り、その方向をかえ、或は中途で萎靡させたかという悲痛な歌の曲節も同じく近代日本文学のあらゆる段階の消長とともに響いているのである。

それらの歌が、日本の近代文学のなかでは少年の内的生活の波瀾の描写としてよりは、青年期の憂悶としてとらえられていることも私たちの注目をひく。島崎藤村の「春」「桜の実の熟する時」はいずれも明治二十年代のロマンティシズムのなかに生れ二十歳前後の青年文学者の心の動きを跡づけたものである。志賀直哉の「暗夜行路」は青年から壮年にわたる日本の一知識人の内的過程を描いたものとして意義をもつものである。

それならば少年少女の心の生活は、日本においてはそんなに幸福で大人の世界との摩擦もなしにすくすくと伸びられていたのだろうか。