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かつしかみやげ

荷風随筆集(上)

永井 荷風

線上閱讀永井 荷風《荷風随筆集(上)(かつしかみやげ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 133,224 字 · 269 頁

青空文庫

竹格子の窓には朝顔の鉢が置いてあったり、風鈴の吊されたところもあったほどで、向三軒両鄰り、長屋の人たちはいずれも東京の場末に生れ育って、昔ながらの迷信と宿習との世界に安じていたものばかり。洋服をきて髯など生したものはお廻りさんでなければ、救世軍のような、全く階級を異にし、また言語風俗をも異にした人たちだと思込んでいた。

わたくしは夜烏子がこの湯灌場大久保の裏長屋に潜みかくれて、交りを文壇にもまた世間にも求めず、超然として独りその好む所の俳諧の道に遊んでいたのを見て、江戸固有の俳人気質を伝承した真の俳人として心から尊敬していたのである。子は初め漢文を修め、そのまさに帝国大学に入ろうとした年、病を得て学業を廃したが、数年の後、明治三十五、六年頃から学生の受験案内や講義録などを出版する書店に雇われ、二十円足らずの給料を得て、十年一日の如く出版物の校正をしていたのである。俳句のみならず文章にも巧みであったが、人に勧められても一たびも文を售ろうとした事がなかった。同じ店に雇われていたものの中で、初め夜烏子について俳句のつくり方を学び、数年にして忽門戸を張り、俳句雑誌を刊行するようになった人があったが、夜烏子はこれを見て唯一笑するばかりで、その人から句を請われる時は快くこれを与えながら、更に報酬を受けなかった。