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くさもみじ
荷風随筆集(下)
永井 荷風
線上閱讀永井 荷風《荷風随筆集(下)(くさもみじ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 30,512 字 · 63 頁
支那の思想は老荘と仏教とを混和した宋以後のものである。西洋の思想は十九世紀のロマンチズムとそれ以後の個人主義的芸術至上主義とである。わたくしの一生涯には独特固有の跡を印するに足るべきものは、何一つありはしなかった。
日本の歴史は少年のころよりわたくしに対しては隠棲といい、退嬰と称するが如き消極的処世の道を教えた。源平時代の史乗と伝奇とは平氏の運命の美なること落花の如くなることを知らしめた。『太平記』の繙読は藤原藤房の生涯について景仰の念を起させたに過ぎない。わたくしはそもそもかくの如き観念をいずこから学び得たのであろうか。その由って来るところを尋ねる時、少年のころ親しく見聞した社会一般の情勢を回顧しなければならない。即ち明治十年から二十二、三年に至る間の世のありさまである。この時代にあって、社会の上層に立っていたものは官吏である。官吏の中その勲功を誇っていたものは薩長の士族である。薩長の士族に随従することを屑しとしなかったものは、悉く失意の淵に沈んだ。失意の人々の中には董狐の筆を振って縲紲の辱に会うものもあり、また淵明の態度を学んで、東籬に菊を見る道を求めたものもあった。