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くさもみじ

荷風随筆集(下)

永井 荷風

線上閱讀永井 荷風《荷風随筆集(下)(くさもみじ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 30,512 字 · 63 頁

青空文庫

中途で帰りたくなりはしまいか。瀕死の境に至っておめおめ帰りたくなるような事が起るくらいならば、移住を思立つにも及ぶまい。どうにか我慢して余生を東京の町の路地裏に送った方がよいであろう。さまざま思悩んだ果は、去るとも留るとも、いずれとも決心することができず、遂に今日に至った。洋行も口にはいいやすいが、いざこれを実行する段になると、多年住みふるした家屋の仕末をはじめ、日々手に触れた家具や、嗜読の書をも売払わなければならない。それらの事は友人にでも託すればよいという人もあろうが、一生還って来ないつもりで出掛けるのに迷惑と面倒とを人にかけるのは心やましいわけである。出発の間際に起る繁雑な事情とその予想とがいつも実行を妨げてしまうのであった。人間も渡鳥のように、時節が来るや否や、わけもなく旧巣を捨てて飛去ることができたなら、いかに幸であったろう。

昭和十二年丁丑四月稿