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きくちよしょう

菊千代抄

山本 周五郎

線上閱讀山本 周五郎《菊千代抄(きくちよしょう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 36,178 字 · 72 頁

青空文庫

二人は川に沿ってずっと東へいった。小名木川が中川へおちるところに船番所がある。その少し手前までいって、栗林の中へはいり、そこで着物をぬぎにかかった。……ちょうど満潮とみえて、水のいっぱいある川の中では、付近の子供たちが男も女もすっ裸で、やかましく水をはねかえしては騒ぎまわっていた。

「さあ早くおぬぎなさいよ、どうしたんです」

先にすばやく裸になった主税は、こう云ってせきたてた。菊千代は寝所からぬけだして来たので、帯を解けばいいのであった。その帯はもう解いたのであるが、どうしても着ている物をぬぐことができない。

――若さまのは……こわれてる。

こういう囁きが耳の奥のほうで聞える。そうして今、川で暴れまわっている子供たちの素裸のからだを見ると、羞恥とも嫌悪とも判断のつかない感情におそわれ、着物の前をしっかりと合わせたまま途方にくれるのであった。

そこへ東谷という若侍と松尾が駆けつけて来た。それでその冒険は中止になったが、そこまでいって泳げなかった口惜しさより、裸にならずに済んだことのほうが、菊千代には遙かにうれしく救われたような気持であった。……はっきりと自身のからだに注意するようになったのは、それからのちのことである。