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おちむしゃにっき

落武者日記

山本 周五郎

線上閱讀山本 周五郎《落武者日記(おちむしゃにっき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 11,460 字 · 23 頁

青空文庫

叢林に包まれた丘は、何段にもなって、次ぎ次ぎと高くひろがっていた。……祐八郎は茂みを茂みをと覘ってしゃにむに登った。

追手の声はいつか遠くなった。

どのくらい駈けたであろう。段丘の頂へ出て、それを右へ、松林の中をしばらく走ったと思うと、左手に谿流の音が聞えてきた、……水だと気付いたとたんに、昨夜からの渇きが恐ろしい力で喉を絞めつけた。

――水だ、水だ。

なかば夢中で、音のするほうへ丘を下りようとした。そこは熊笹の藪だった。浮足で下りるところを、その笹へ踏込んだので、ずるっと滑った。

――ああ。

と叫んで笹を掴もうとしたが、物具を着けている重みで、そのままずずずずと滑って行く、どうする間もなかった。体が宙に浮いたと思うと、断崖の外へ毬のように堕ちていった。

大地に体を叩きつけられたとき、祐八郎はその衝撃をたしかに感じた。しかし、そのあとはまるで覚えがなかった。……陣鉦や貝の音が、潮騒のように遠く近く聞えた。……松尾山から押し下る中納言秀秋の軍勢の、旗さしものの飜くのが見えた。……裏切り、裏切りという味方の者の絶叫が、耳を劈くように響いてきた。

――金吾秀秋、犬め!