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あしはみていた

葦は見ていた

山本 周五郎

線上閱讀山本 周五郎《葦は見ていた(あしはみていた)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 17,985 字 · 36 頁

青空文庫

――計之介の居間へ、戻った挨拶に来たとき、松野は泣いた。

「杉丸さまからうかがいました」と松野伊太夫は云った、「あのときは無礼なことを申上げましたが、どうぞお赦し下さいますよう」

計之介は頭を垂れた。そして低い声で云った。

「勘弁しておくれ、私はやり直すからね」

松野は「はい」といった。

「私は立ち直ってみせる」と計之介は云った、「きっと立ち直ってみせるよ、きっとだ」

計之介の眼からも涙がこぼれ落ちた。

臨時に雇った二人の下僕をさしずして、松野が家の中をきれいに片づけた。家財道具も殆んどなく、家じゅうが荒れ放題になっていた。それをきれいにし、さしあたり入用な物を買いいれた。金は杉丸が都合してくれたらしい、あとで「残ったから」といって、二両ほどの金を計之介に渡した。

中一日おいて東次郎が訪ねて来た。

そのときはもう、松野の老妻も戻っていたので、つつましく酒肴の膳を拵え、昼食を共にしながら話した。

計之介はすっかり話した。話す必要もなくまた話せないことはべつにして、できるだけありのままに告白した。

藤吉の家は五百三十石の中老で、父の舎人は側御用を勤めたこともあり、酒も煙草も口にしたことのない、謹直な人であった。