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あしはみていた
葦は見ていた
山本 周五郎
線上閱讀山本 周五郎《葦は見ていた(あしはみていた)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 17,985 字 · 36 頁
「松野はそれができなかった」と計之介は云った、「もう金がなくなりかけていたんだ」
伊太夫は金のことは云わなかった。杉丸家に聞えては済まない。家中の評にのぼっても、家名に瑾がつくからと云った。それからの二人はそれまでの二人とは違ってきた。みんなが睨んでいる、みんなが仲をさこうとしている、もうおおっぴらには逢えない。二人はそう思い、隠れて逢うようになった。それが二人をもっと強くむすびつけた。世間の眼を忍ぶことで、お互いへの愛情も、快楽への誘惑も激しくなり、一日も逢わずにはいられないようになっていった。
計之介も女も借金が嵩んだ。
彼は松野に云えない金を借りてまわり、おひさは彼の気づかないところで借金をつくった。いうまでもない、二人は世間の眼を忍ぶために、却って世間の噂を高めるような結果になった。――給銀が払えないので、松野は召使たちに暇をやり、三人いた家士たちもつぎつぎに去った。
父の舎人が死に、彼があとを相続したので、もうなにか役に就くじぶんであった。しかしなんの沙汰もない、おそらく女との噂が邪魔をしているのだろう。役に就かなければ(中老の家格に変りはないが)食禄は三分の一減らされる。