輕鬆讀懂日語經典作品
ja-reading.com
輕鬆讀懂日語,輕鬆閱讀日語。線上閱讀日語經典作品。支援在閱讀過程中顯示假名、查詢生詞、翻譯句子。
たでくうむし
蓼喰う虫
谷崎 潤一郎
線上閱讀谷崎 潤一郎《蓼喰う虫(たでくうむし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 110,066 字 · 216 頁
夫は何故に今ごろになって老人の機嫌を取ろうとするのか。彼女の父が夫に取っても永久に父であり得るならば知らぬこと、もう近々に「父」と呼ぶことも出来なくなるのに、それを今更附き合ったところで無益ではないか。なまじ孝行の真似などをすれば後で事実が知れた時に一層怒らせるようなものではないか。
夫婦はそんなふうに別々の心を抱いて阪急の豊中から梅田行きの電車に乗った。三月末の彼岸ざくらが綻びそめる時分のことで、きらきらしい日ざしの底にまだ何処となく肌寒さが感ぜられたが、要はうすい春外套の袂の外へこぼれている黒八丈の羽織の生地が、窓の明りで干潟の沙のように光るのを見た。和服の時は寒中でもシャツを着けないのを身だしなみの一つにしている彼は、長襦袢の裏と皮膚とのあわいに清涼な風の孕むのを覚えながら内ぶところへ両手を入れていた。車の中は時間が半ぱであるせいか疎らな客がめいめいゆっくりと席を取り、真新しい白ペンキの天井の下は空気が隅まで透き徹っていて、並んでいる人たちの顔までが皆健康そうに、朗らかに明るい。美佐子はそれらの顔の中にわざと夫と向い側にかけて鼻のあたまを毛皮の襟巻のふかふかとした中へ埋める程にして、縮刷本の水沫集を読んでいるのである。