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たでくうむし

蓼喰う虫

谷崎 潤一郎

線上閱讀谷崎 潤一郎《蓼喰う虫(たでくうむし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 110,066 字 · 216 頁

青空文庫

蚊帳の裾がさらさらと鳴ったのは、風ではなくてお久が中へ這入ったのだった。そして手さぐりでスウィッチを捜して、枕もとの行燈の中に仕込んである球をともした。

「もうちょっと明い球持って来まひょか」

「なあに、昔の本は字が大きいから、これでも結構読めるでしょう」

「雨戸明けといてもよろしおすやろ、あんまり暑苦しおすさかい、………」

「ええ、どうぞ。いい時分に僕が締めます」

要はお久が出て行ってしまうとともかくも蚊帳の中に這入った。広くもあらぬ部屋ではあるし、麻の帳で仕切られているので、二つの蓐が殆ど擦れ擦れに敷いてある。自分の家では、夏にはいつも出来るだけ大きな蚊帳を吊って、出来るだけ離れて寝る習慣があることを思うと、この光景は異様に感ぜられなくもない。しょざいなさに彼は煙草に火をつけて腹這いになりながら、萌黄の帷の向うにある床の間の軸を判じようとしたけれど、何か南画の山水の横物らしいとは思えても、行燈が中にあるせいか外はもやもやと翳っていて、図柄も落もよく分らない。掛け軸の前の香盆に染め付けの火入れが置いてあるので、始めてそれと気がついたのだが、さっきから微かに香っているのは大方あれに「梅が香」