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とうそんのぶんがくにうつるしぜん

藤村の文学にうつる自然

宮本 百合子

線上閱讀宮本 百合子《藤村の文学にうつる自然(とうそんのぶんがくにうつるしぜん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 6,118 字 · 12 頁

青空文庫

明治学院の学生時分から、藤村はダンテの詩集などを愛誦する一方で芭蕉の芸術に傾倒していた。二十三歳頃吉野の方へ放浪した時も、藤村はこの経験によって一層芭蕉を理解することが出来るようになったと語っている。芭蕉の芸術はその文学的教養の面から、自然に没入する過去の日本芸術の伝統を藤村に植えた。加えて内部には、幼くて故郷から引はなされた者の感情に常に消えない虹となってかかっているふるさとの自然への魅力が潜み、更にそれがヨーロッパ文学の積極的な文学表現によって刺戟され、培われたのである。藤村が、芸術の源泉・秘密の源が「広大で無尽蔵な自然の間にあることは云うまでもない」と「春を待ちつゝ」の中で云っているのは、決して一朝一夕の思いつきではないのである。

藤村の『若菜集』(明治三十年。二十六歳)引きつづいて翌三十一年の春出版された『一葉舟』『夏草』、第四詩集である『落梅集』などが、当時の若い人々の感情をうごかし捉えた力というものは、今日私達の想像以上のものがあったらしい。日露戦争の後、日本に自然主義文学の運動が擡頭する前、日清戦争の勝利によって、新しく世界へ登場するようになったばかりの日本の社会には、謳うべくしてその言葉を知らないような新鮮な亢奮が漲ってもいただろう。