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らんがくことはじめ
蘭学事始
菊池 寛
線上閱讀菊池 寛《蘭学事始(らんがくことはじめ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 15,575 字 · 31 頁
彼は、茫然として語がなかった。良沢に対して主張し得ると思っていた彼の最後の拠りどころは、脆くも踏みにじられてしまったのであった。が、玄白は、懐中している自分の本を出さないわけにもいかなかった。
「前野氏は、かねてから御所持でござったか。実は、拙者もこのほど、一本を求め申してござる」
玄白は何気ないように披露した。が、彼が昨夜から楽しみにしていた披露する折の得意さ、晴れがましさなどは微塵も感じられなかった。韮を噛むような気持であった。
が、良沢は、それを見ると、心からおどろいたらしかった。彼は玄白の差し出した本を取り上げながら、表紙や扉を打ち返して見た。
「これは紛れもなく同本じゃ。不思議な奇遇でござる。奇遇でござる」
そういいながら、良沢は幾度も手を打った。良沢の態度は、天空のごとく開豁だった。
「貴所と某とが、期せずしてターヘルアナトミアを所持いたしおるなど、これはオランダ医術が開くべき吉瑞とも申すべきでござる」
良沢は、そう語をつづけて哄笑した。彼は、書中の一図を玄白に指し示しながらいった。
「御覧なされい! これが、ロングと申し肺でござる。これがハルトと申し心でござる。