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らんがくことはじめ

蘭学事始

菊池 寛

線上閱讀菊池 寛《蘭学事始(らんがくことはじめ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 15,575 字 · 31 頁

青空文庫

申の刻を過ぎた頃に、玄白が躍り上るようにして、その膝頭を叩いた。

「解せ申した。解せ申した。方々、かようでござる。木の枝を断ち申したるあと、癒え申せば堆くなるでござろう。塵土聚れば、これも堆くなるでござろう。されば、鼻は面中にありて、堆起するものでござれば、フルヘッヘンドは、堆しということでござろうぞ」といった。

四人は、手を打って欣びあった。玄白の目には涙が光った。彼の欣びは、連城の玉を獲るよりも勝っていた。

が、神経などという言葉に至っては、一月考え続けても解らなかった。

彼らは、最初難解の言葉に接するごとに、丸に十文字を引いて印とした。それを轡十文字と呼んでいた。初め一年の間、どのページにもとのページにも、轡十文字が無数に散在した。

が、彼らの先駆者としての勇猛精神は、すべてを征服せずにはいなかった。一カ月六、七回の定日を怠りなく守った甲斐はあった。一年余を過ぎた頃には、訳語の数も増え、章句の脈も明らかに、書中の轡十文字は、残り少なくかき消されていた。

先駆者としての苦闘は、やがて先駆者のみが知る欣びで酬われていた。語句の末が明らかになるに従って、次第に蔗を食らうがごとく、そのうちに含まれた先人未知の真理の甘味が、彼らの心に浸みついていた。